妖怪アパートのアリスな日常



「ただいまース!」
 俺は寿荘、通称「妖怪アパート」の門をくぐる。華子さんが、おかえりと言ってくれる。
しかし、華子さんがピンクのドレスを着ていたように見えたのは、気のせいか?!疲れてんのかな、
俺。ドアを開けると、居間からクリがヒョコッと顔を出した。
「ク・・・・リ・・・?」
 俺は、クリの格好を見て絶句してしまった。
「うさみみ?え?コスプレ?」
 そう、クリはうさみみをつけて見慣れないスーツのような格好をしていた。でも・・・
「可愛いッ!クリーーーー!」
 クリを抱きしめようと、駆け寄るとクリは、走って逃げていった。そして、廊下のつきあたりの部屋に入る。
「?」
 俺は、疑問に思いながらもその部屋のドアをあける。そこにはクリはいなかった。そして、部屋に踏み入れると・・・・
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
 床が、ありませんでした。ハイ。どんどん落ちてゆく。
 …そりゃ、ここは妖怪アパートだよ?だからカラクリの、1つや2つあってもおかしくないけどさ、
「どーこーまーでーおーちーるーんーだーッ!」
 俺は、底にむかって叫ぶ。俺の周りには、フワフワと輝くモノが飛んでいた。
 ドスン。
 落ちたところは、木の部屋だった。俺は、部屋の中をキョロキョロと見ていたとき、鏡の前を通った。
そして、鏡で見た自分の見た姿が信じられなかった。
俺は、頭にリボンをして、青いワンピースに
白いエプロンをしていた。俺は、女装の趣味があったのかー!ってなわけはなく。
「えっ!俺、いつ着替えたんだ?」
 俺は、さっきまで制服を着ていた・・・はずだ。しかし、制服はどこにもない。しょうがない。いや、
しょうがなくないけど。俺が、自分の格好に動揺していたときだった。
 ぽりぽり・・・。
 音のした方を見ると、クリがクッキーを食べていた。
「クリッ!」
 今度こそ、と思ったのもつかの間、クリは10センチ程に小さくなった。それから、懐中時計をパカッと
ひらいて時間を確認すると、(時計、読めんのかな?)壁にあったこれまた小さなドアをくぐって出て行ってしまった。
俺は、なんでクッキーで
小さくなれるんだ!なんて疑問も持たず、夢中でクッキーを食べた。
 ぽりぽりぽり・・・。
「うおっ!」
 さっきまで、俺の腰ぐらいしかなかった机が果てしなくデカイ。俺は、急いでドアのほうに走る。机とドアまでの距離は、
ほんの2、3m。しかし、この体だと遠いなんてもんじゃない。走っても走っても、いっこうに辿り着けない。俺の足が限界に
達したとき、ようやくついた。
「ドアの・・・前で食えばよかった・・・」
 後悔先に立たずとはこのことだ。部屋から出ると、そこは森のようだった。森にある1本道をクリが走っていた。
「急がなきゃ!女王様に怒られちゃう!」
 森には、クリと俺しかいない。でも、俺はしゃべってないし、クリもしゃべれないし。じゃあ、誰?
「しゃべったのは、クリだよ」
「えぇっ!」
 どういうこと?ってか自分で言う?
 ん?この声・・・どこかで・・・。
「お前、誰?」
「クリだよ」
 え!もしかして千晶?!やっぱりこの声は千晶の声だ。でもなんで、千晶が・・・?
 まぁいいか、今はクリを追うのが先だ。しかし、しばらく走ったところでクリを見失ってしまった。
「どうなってんだ」
「さあねぇ」
 今度は、上から声が降ってきた。そこには、いかにも「毒キノコです!」というようなキノコがあった。そのキノコの上には、
イモムシの古本屋がいた。
「・・・・キモッ!ってか古本屋?」
 俺は、思わず本音を叫んでしまった。
「ゴホン。私の名前は古本屋ではない。「イ・モムーシ」だ」
「・・・・ダサッ!」
「ゴホンゴホン。アリス君。で、大きくなった方が、クリを見つけられると思わないかい?」
「え?俺の名前って、アリス君なんスか?」
「食いつくとこはそこか!」
「あぁ!このカッコ、どっかで見たことあると思ったらアリスのカッコだったのか」
「ゴホンゴホンゴホンッ。大きくなりたくないかい?」
「大きくなりたいっス!」
「よかろう。ピンクのキノコを食べると大きくなり、ムラサキのキノコを食べると小さくなる」
「これ、食うんスか?」
「もちろん」
「お腹こわしたりしないっスか?」
「・・・・・・・多分」
「多分って!」
「ええい!つべこべ言わずに食えーーー!」
「うわっ!モグモグ・・・。」
 ゴクン。
 うわー、食っちゃったよ。マジ大丈夫なのかよ、このキノコ。あれ?どんどん、イ・モムーシ・・・じゃなくて古本屋が
ちっちゃくなっている。
「俺が、でかくなってんじゃん!」
 背はグングン伸びていく。
「そろそろヤバくね?」
 ピタッ!
「あ、止まった。さて、クリはどこかなー?」
 ズシンッ!ズシンッ!
 何の音だ?ん?あぁ、俺の足音か・・・。って足音?!
 俺の歩いたところの木が、折れて大きな足跡がついていた。ありえねー。じゃなくて、どうしよう。このままじゃ、
森がめちゃくちゃになってしまう。あ!そうだ、ちっちゃくなるキノコ(けばいムラサキ色の)を食えばいいんじゃん。
 モグモグ。
 シュルシュルシュル。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
 ポンッ!
 イ・モムーシに会う前のサイズにもどった。意味なっ!ま、古本屋を頼りにした俺が悪いか。
 さて、地道にクリを探し始めた俺だが。
「こんなに、広い森で見つかるかなー?」
 これでは、迷子状態である。
「確か、女王様がなんとかとか言ってたよなー」
「女王様が、どうしたのー?」
「わっ!秋音ちゃんっ?!」
「違うよ、あたしはねー・・・公爵婦人なの」
「公爵夫人・・・。」
 またか・・・。イ・モムーシがよみがえる。
「そう。で、女王様がどうかしたの?」
「あ!そうだ、クリがいなくなっちゃたんスよ」
「クリ?ああ、白ウサギのことね。白ウサギなら、女王様にお茶に招待されてるのよ」
「そうなんスか?」
「そうよ。でも・・・女王様はちょっとヒドイのよねー」
「なんでスか?」
「あたしも、前はお茶会に招待されてたんだけどお菓子をいっぱい食べすぎたから来ちゃダメ!っていうの」
「いっぱいって・・・どんぐらい食べたんスか?」
「んー?バイキング形式なんだけど・・・机8個ぐらい?」
「机って・・・」
 単位がおかしかないか?
 でも、秋音ちゃんならそれぐらいぺろっと食うんだろうなぁ。
 秋音ちゃんの食べてる姿が、想像できて笑える。
「まー、賄いのるりる・・・料理人がいるからいいけどネ」
「それで、女王様ってどこにいるんスか?」
「もちろんお城よ。お城は、ほらあそこにあるわ」
 秋音ちゃんの指差したほうには、確かにお城があった。
「公爵婦人サン、ありがとうございました」
「いえいえ♪気をつけてねー!」
 最後の「気をつけて」と言った笑顔がとても気になるんですけど・・・。目指すは、城!
 さっそく、迷った。
 森の中は迷路みたいで、なかなか城に近づけない。俺が、当てもなくフラフラ歩いていると、
「やぁ、そこのお嬢サン。一杯いかがー?」
 聞き覚えのある声のほうには、3月ウサギと書かれた帽子をかぶっている詩人がいた。ラクガキのような
顔と帽子についているうさ耳は、ある意味あっていた。
「お嬢サン?あぁ、ユー・・・アリスのことか」
 煙草をふかしているのは、画家。画家の格好は・・・?
「あぁ、この格好か?これは、たしか帽子屋とかいったな」
 帽子屋。なるほど、それなら頭の緑の帽子とどっかの貴族みたいな格好もうなずけ・・・る。
「や、俺クリを探してて・・・。」
「そんな固いこというなよー」
 画家の手が、俺の体をひっぱってくる。
「そうだヨー。ちょっとぐらい寄り道してもいいんじゃない?ネ?」
 詩人が、コポコポとコーヒーを入れている。
「お前のことだから、どーせ迷ってるんだろ!?」
 う・・・。イタイところを突いてくる。
「じゃ、1杯だけっスよ?」
「そーこなくちゃネ」
 詩人と画家がおもしろそうに笑った。
「あ!そうだ、アリス君。ちょっとそこに立ってて。」
 俺は、言われた通りに木の下で待っていた。何をするのかと思ったら・・・
 カシャッ!
 パシャパシャッ!
 詩人は1眼レフカメラで、画家はケータイのカメラで、写真を撮っていた。
「何してるんスか?」
 おそるおそる聞いてみる。
「なにって、アリス君を撮ってるんじゃないか」
「こんな姿はめったにないからな」
 やっぱり・・・。今まで、自分の姿を忘れていた。このままだと非常にマズイ!
「撮ってどうするんスか?」
「いろんなヤツに見せびらかす!」
「アタシはねー、ポスターを作ろっかなー」
 どっちも、すごいイヤだ!
「マジッスか?」
「ああ」
「うん」
 なんだか、泣きたくなってきた。
 パシャっ!
「悲しみにくれている、アリス君」
 詩人はとっても、楽しそうだ。俺は、これ以上写真を撮られないようにそそくさと逃げた。
「あー、逃げちゃったねー!」
 詩人の笑い声が聞こえた。

「長谷?」
 詩人と画家から逃げてきて、木の上を見るとそこに長谷がいた。チェシャ猫の姿で・・・。
「長谷だよな?!助かった。城まで案内してくれ」
 俺が、そういうと長谷の(正しくはチェシャ猫の)しっぽが顔面を直撃した。
「ってェー!」
「お前の、その曲がった根性を叩きなおしてやる!」
「はぁー?意味わかんねぇよ!」
「本当にクリが好きなら、自分の力で探せッー!」
「じゃあ、お前も探せよ!」
「俺は、探しに行きたくても行けないんだよー!」
 どうやら、本当は探しに行きたくてたまらないらしい。なにか、深い意味があるんだろう。
「わかったよ!」」
「なら、とっとと行けー!」
「イエッサー!」
 これ以上、長谷には関わらないほうがいいだろう。俺はまた、逃げるように走った。
 いや、実際逃げてるんだが。
 なんとなく走っていたら、城の前の1本道にでた。俺は、いそいで門の前まで行ってどうやって
入ろうか迷っていた。
「そこのお嬢さん、どうかしたのかな?」
「龍さんッ?!」
 今度は、キング姿の龍さん・・・。なんだか、もう驚くのにもつかれた。
「で、城に何かようかな?」
「あっ!クリがここにいると聞いたんスけど・・・」
「白ウサギなら、さっき城に入って行ったよ」
「あの・・・俺も城に入れまスかね?」
「全然かまわないよ。ほら・・・」
 ギィィィと音をたて、門が開いた。
「いらっしゃい、アリス君。」
 龍さんは、意味深に笑うとどこかへ行ってしまった。俺が門をくぐると、門はまたギィィィと音を
たてて閉まった。そこは、真紅の薔薇が咲く庭園だった。
チョキチョキと草を刈っているのは・・・
山田さん?わー、ハサミにバージョンアップしてるー。じゃなくて。俺は、山田さんに「がんばってください」と
礼をしてから、庭の奥へと進んだ。
「次は、白ウサギさんの番よー!」
 まり子さんが・・・女王様?
「あー!稲・・・アリス君だーッ!」
「ホントだー!カワイイー!」
「似合うねー♪」
 俺を見てそう叫んだのは、田代・桜庭・垣内。
「おまえら・・・ブッ!」
「あー!笑うなんてサイテーッ!」
 3人の、トランプの着ぐるみ姿はなんとも可笑しかった。
「ほらー、トランプちゃん、白ウサギさんの番よー!」
「はぁーい」
 田代たちは、返事をすると走っていった。
 俺も、後につづく。
「はぁーい、白ウサギさんあたしと同じトランプをこの中から選んでネー!」
 田代が、クリに向かって言っている。田代は、ハートの2番。
 机の上には、ふつうのトランプが並べてある。
 クリは、田代とトランプを見比べてから、机の上のトランプをじーとみつめて考えている。その姿が、
カワイすぎるー!クリは、1枚選んで田代に差し出した。
「白ウサギさん、あたりー!!」
「わぁーい!」
 再び千晶の声・・・。千晶はこの役を大いに楽しんでいるようだった。
「わー!白ウサギさんスゴーイ!」
 まり子さんが拍手をしながら言う。クリは、まり子さんに向かって手を出した。
「クッキー、ちょーだい!」
「あ!そうそうちょっとまっててね」
 まり子さんは、もう1つの机にむかうと、お皿を持って戻ってきた。
「はい、どーぞ!」
 クリは、チョコのクッキーをとって食べた。
「おいしー♪」
「あのー、もとの世界に戻りたいんスけど・・・」
「あら、もう帰るの?」
 まり子さんが、残念そうに言う。
「はい、バイトがあるっスから」
「あー!ちょっと待って!」
 田代があわてて言う。
「なンだよ?」
 パシャッ!
「・・・テメー!」
「えへへッ!」
 桜庭と垣内もバッチリ撮ったようだった。ああ、また同じ過ちをおかしてしまった・・・。
「さて、帰してあげるか」
 田代は、そういうと俺の手をグイグイ引いていった。
「どっから帰るんだ?」
「ヒミツー♪」
 そういって、薔薇の庭園をでたかと思ったら・・・
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
 俺は、崖の上から下の海へと突き落とされた。
 ボッチャーン。
 大きな水柱を立てて、俺は沈んだ。
(あれ?苦しくない・・・。)
 俺は、つぶっていた目を開けた。天井が見えた。
「あれー?ア・・・ユーシ君、起きた?」
 詩人が新聞から顔をあげて言った。
「ここは、妖アパ?」
「何言ってるの?ユーシ君」
「そうっスよね」
「そう、ここは妖怪アパートだよ?」
 ラクガキのような顔で、ニッコリ笑う。
「トイレ行ってきマス」
「いってらっしゃーい」
 ペタペタ・・・廊下をはだしで歩く。ん?足の裏になにかくっついてる・・・紙?何か書いてある。


『ユーシ君、ドッキリ大作戦ッ!
        〜アリスの世界にようこそ〜』
★メンバー★

・アリス   (夕士)
・白ウサギ  (クリ)
・白ウサギの声(千晶ちゃん)
・イモムシ  (古本屋)
・公爵夫人  (秋音ちゃん)
・料理女   (るりこさん)
・チェシャ猫 (長谷くん)
・3月ウサギ (詩人)
・帽子屋   (画家)
・トランプの2,5,7番 (田代、桜庭、垣内)
・ハートの王様(龍さん)
・ハートの女王様 (まり子さん)
・ハートのジャック (骨董屋)←帰って来れない


「・・・・・」
 えー!ってか、やっぱり?はぁ・・・、なんかつかれたよ。
「あ、おかえりー」
「あの・・・」
「どしたの?」
 ひらり・・・新聞の間から1枚の写真が・・・
「ッ!!!!!!!!!」
 アリス姿の俺・・・。
 ビリッ!
 俺は、なんのためらいもなく写真を破る。
「一色さん・・・!」
「アハハ!なんのことー?」  ユーシの、アリス姿の写真は1枚500円で売れたとか・・・。
「ふざけんなーッ!」
 俺の叫びは、妖アパの住人たちの笑い声にかき消された。




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