第1話 上京



ゆう!」
 名前を呼ばれて、振り向く。すると、クラスで仲のよかった友達4、5人がいた。
「えっ!何で来たの?」
「だって、上京するんだろ?」
 その言葉で、気がつく。このメンバーのなかで、そのことを話したのは柏崎だけだった。ということは…。
「ちょっと!皆に話したの?」
 小声で問う。
「だって、皆が『何か隠してるだろ!』って問い詰めてくるから…」
 小さなため息をつく。初めから、こういう人だと分かっていて言ったのは僕だ。今回は僕が悪い。言わないなら言わないで、皆そうすれば良かったのだ。
「なぁ、悠。寮のある高校に行くんだろ?それって祖母ちゃんや、祖父ちゃんのためなのか?」
「うん…まぁ、そんなトコかな……」
 僕は来月から、高校生だ。僕の母さんは、僕がまだ小さい頃に交通事故で亡くなったらしい。父さんも、一昨年、病気で他界した。だから僕は、父方の両親――僕のお祖父ちゃ んとお祖母ちゃんの家で育った。僕も、小学校5年生のときに、交通事故にあった。大怪我では無いものの、記憶を失ってしまった。でも。父さんが一から教えてくれた。
「そっか、じゃあコレ、受けてみれば?」
 無理やり封筒を押し付けられる。このときを待っていたかのように、新幹線のベルが鳴った。
「んじゃ、バイバイ!中身は新幹線の中で見てね」
 皆は笑顔で手を振る。
 ――このときは、この手紙によって僕の人生が大きく変わることになるのを、知る予知も無かった。
 新幹線に乗り、封筒の中身を見てみる。一番初めに目に入ったのは…
『一時審査合格おめでとうございます』
の文字だった。何のことだと思いながら、次を読んでみる。
『この度は、"新人歌手発掘オーディション"にご応募いただき、真に有難うございます。
この手紙は、一時審査合格者のみに送らせていただいております。
 つきましては、下記の日時に二次審査を行うので、お越しください。二次審査では、一時審査合格者の
五分の一に絞ります。最終審査(三次審査)は、二次審査合格者に通知いたします。
最終的には、三人の方がそれぞれデビューできます。最終結果は、HP上でもお知らせするので
チェックしてください。デビューの方には賞金として、一人100万差し上げます。


 二次審査  ・日時 3月○○日(土) 午後1:00〜4:00には終了予定 
       ・場所 △△△会場
       ・内容 自己PR(1人1分)と簡単な面接
       ・持ち物 スリッパ、自己PRに使うもの

             時間より少しはやめにお越しください』


「って…コレ…オーディション!?」
 悠は、自分が新幹線にいることを思い出して、慌てて口をふさいだ。
 柏崎達…こんなもの勝手に送って…。…でも、これってもしも、デビューできたら賞金がもらえるんだよな…。そしたら、寮の分のお金や、学費が自分のお金でだせるんじ ゃないのか?それならば、受けてみようかなぁ…。オーディションは明後日か……。

 そんなことを考えているうちに、東京へ着いた。僕が来月から通う高校は、春休みから寮に入れる。だから、僕は荷物が届いてるはずの寮へと向かった。


「えーと、ここか……。杉ノ宮高校の寮は」
  僕は、自室の203号室の扉をノックした。2人部屋で相手は先に来ているらしい。
「はい」
という声がして、扉が開いた。出てきた人の背は、僕よりも数センチ高い。眼鏡をしていて、近寄りがたい真面目そうな人に見えた。
「あの、同室の琴原悠です」
 そういうと、その人は急に笑顔になった。笑ったときは、感じのよさそうな人だと思った。
「俺は、水城慧みずきあきらヨロシク」
「はい!」
 部屋の中は、思ったよりひろかった。落ち着いた色合いで、暮らしやすそうだし、同室の人ともその後少し喋ったが、いい感じの人だと分かった。これから、ここで楽しく暮らせそうだと思った。




 そんなこんなで、ついに、オーディションの日がやってきた。






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