第4話 顔合わせ



 その日も特にすることはなく、またなんとなく一日が過ぎていった。もう四月に入り、高校生活は始まっていた。今日は休日で、特に用事も無い。
「あ、そうだ。慧、言い忘れてたけど、デビューできると、"あの"爽と一緒に活動できるんだって」
「うそ!じゃあサインもらってこいよ!」
「だから、まだデビューできるって、決まって無いじゃん」
「悠なら大丈夫だって」
「あ!そろそろ郵便のくるころだ。今日こそ、手紙届くかな?ちょっと見てくる」
「あぁ」

 廊下を早足で歩く。階段は段飛ばしで。正面玄関の横にあるポストの中から、203号室とかいてあるポストを開ける。一通だけ入っていた。宛名を見てみる。
「っ!!うそ!通知が来た!!!」
 驚きすぎて、早く慧に伝えたくて、廊下を走っていく。こんな時まで早歩きというほど、僕はお人好しではない。
「慧!!見てコレ」
「ん?通知か……?ふ〜ん、よかったじゃん」
「え!?何、それだけ?おめでとうの言葉は!!」
「だから、悠なら受かるって言った」
「は〜……まぁいいや」
「それより、手紙読んでみろよ」
「え〜っと、『この度は、新人歌手――
「そこはいいから、次」
「はいはい。メンバーの顔合わせを13日―って明後日!?」
「明後日…ね。悠、明後日まで待てないんじゃないか?」
「大丈夫だよ」


 顔合わせ当日―――
「ここ……か。オーディションの会場とは比べ物にならないくらい………高いな」
そのビルは、オーディション主催の有名音楽会社の本社だった。受付で手紙に入っていた、合格通知を渡す。"オーディション合格者"とかかれた首からさげるパスを渡された。
エレベーターに乗って9階を押す。集合場所は9階の会議室Aだったはず。目的地に近づくにつれて、鼓動が早くなっていく。ドアのノブに手をかける。手が震えた。今になって、オーディション合格の凄さが分かった。息を吸ってドアを開ける。
「失礼します」
「お、きたきた!」
僕以外の三人はもう揃っていた。その中に、見覚えのある顔が……。 「あ!!」
びっくりして、思わず指をさしてしまった。そう、そこにはいたのは、最終審査で隣の席だった人だった。
「まさか、本当に会うなんて!?」
「俺は、君を見て素質があると思ったけどね」
 その人の話が終わると、爽がパンパン、と手を叩いた。
「とりあえず、悠…君は席に着いたら?そしたら、自己紹介を始めよう」
「あ、うん」
 とりあえず、空いている席に座る。向かいあった机で二人づつ座っている。隣は爽だった。
「それじゃあ、俺から。俺は横嶺 爽よこみね そう。高1の15歳。ヨロシク」
「じゃあ次は俺が。俺は飯田 永都いいだ ながと。高3の17歳だ。悠とは、最終審査の時に隣同士だったので、顔見知りです。ヨロシク」
「私は、岡崎 泉莉おかざき せんり。高2の16歳。この中では、唯一の女子だけど、明るさなら劣らないから!ヨロシク」
 皆に、最後は君の番だよ、と目で言われた。爽と同い年なのに、何故だか子供扱いされてる気がする。
「僕は、琴原 悠ことはら ゆうです。爽君と一緒の高1で15歳です。よろしく」
 僕が言い終わると、ちょうどドアがノックされ、人が入ってきた。

「お!皆揃ってるね。時間厳守とは、いい心がけだ。……ところで、爽。今回のメンバーは、個性的なのを選んだと聞いたけど、今は皆静かだね。お互い会ったばかりで緊張してるのかな?」
「河野さん。それは、あなたが今入ってきたからですよ。それに、ちょうど自己紹介が終わったところですから」
「そう。ちょっと、俺が遅刻したみたいだね」
「ダメじゃないですか。それより、皆が誰?って顔してるんで、自己紹介したらどうです?」
「あぁ、そうだね。え〜っと、俺は河野。キミ達のマネージャーだ。これからヨロシク。えーっと、とりあえず、爽、悠、永都、泉莉。キミ達は一緒に活動するから、仲良くなるために、とりあえず呼び捨てで名前を呼んだらどうかな?」
「いいんじゃないですか?俺は賛成です。ところで、河野さんはお幾つですか?若く見えますけど」
 永都が言った。
「あぁ、25だ」
「若いですね」
「永都。去年のこの新人歌手オーディションで受かった、哉多かなたさんっていただろ?」
「うん。確か凄い売れて、今じゃ、哉多…さん司会の音楽番組持ってるくらいだもんな」
「そう、その哉多さんの去年一年のマネージャーがこの、河野さん何だよ。だから、この若さでまた俺たちのマネージャーを任されたんだよ。一人から四人に増えてるけど。まぁ、活動は四人一緒だからそんなに大変じゃないんだろうけど。」
「爽。簡単に言うけど、一人が四人に増えたって、大変なんだよ。衣装は四人全く一緒ってわけじゃないし、皆学生だから、スケジュール管理なんて特に大変。ライブやるっていっても、高校のこと考えたら、休みのときがやっぱりいいし………って、ほら!!」
「何か、大変そうですね」
 結局、永都の苦笑いでその話題は終わった。
「とりあえず、今日はこれだけ。そうそう、このオーディションは有名だから、きっと、テレビで取り上げられるよ。会見を行うかどうかは、またこっちで検討するから。悠君は、東京の寮に移ったんだよね?じゃあ、住所の変更ということで、連絡先、この紙に書いといて。電話もね。じゃあ、これだけだから、解散!!」
「えーっと、杉ノ宮高校は…」
「あぁ、高校の住所はいいよ。部屋の番号はかいといて。」
「はい。一年生棟の203号室、っと」
「ん?悠って杉ノ宮高校なのか?」
「そうですけど」
「ふーん。俺もそうなんだ。三年棟にいる」
「えぇ!永都……って先輩なんですか!?」
「あぁ。敬語はいいよ。学校の先輩後輩以前に、仲間なんだから。じゃあ、俺は104号室だから、何かあったら来ていいから。じゃあな!」
「ふ〜ん。悠と永都は一緒の高校なのか…」
「河野さん。何でメモするんですか?」
「あぁ、コレのこと…これは、四人のことを早くしるためにキミ達のプロフィールとかをかいてあるんだ。マネージャーには大切なことだよ」
「へぇ……そうなんですか。ところでどこら辺まで知ってるんですか?」
「ん〜、生年月日、血液型は当然、出身地に家族のこと等これからもどんどん増えていく予定だよ」
「すごいですね…」
「まぁね」
「あ、じゃあ僕はこれで。失礼します」
 会釈して出て行く。なんだかワクワクしていた。これから、あの仲間と活動できると思うと、すごく楽しみだ。足取りが軽い。この調子で寮に帰ったら、慧に絶対何か言われる。そのくらい嬉しかった。しかし、それと同時に何かが起きる予感もしていた。




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