4 繋がり


「ただいま」
僕が、部活を終えて帰ると三浦はもう帰っていた。
「あ、おかえり」
三浦が、顔だけこちらにむけて言う。
「三浦は部活どうするの?」
「うーん…めんどうだし帰宅部でいいんじゃない?」
「いいの?」
「うん。あ、ご飯まだ?」
三浦の性格がだんだんよく分かってきた。
僕は、1つため息をつくと準備にとりかかった。
「三浦、準備手伝って!」
「…はーい」
僕は、完成した料理を見て満足げに微笑む。
「笑ったりすんだ」
三浦が意外そうに言う。
「一応、人間だからね」
「ふーん」
一瞬、三浦の顔色が変わったが、すぐいつもの表情に戻した。
「いただきます」
さっぱりとした大根おろしハンバーグに野菜たっぷりのコンソメスープ。
僕は、黙々と食べる三浦を見ながら「部活もしてないのによく食べれるね」と呆れていた。
「ごちそうさま」
食べおわり、三浦はコーラ、僕は紅茶を持つと席に着いた。
「聞きたいことが、たくさんある」
僕は、そう切りだすと昨日聞けなかったことを質問した。
「まず、三浦が僕の家に来た理由は?」
「簡単に言うよ。廉の親と俺の親たちは仲がよかった。で、廉の親たちが飛行機の墜落事故で亡くなって、俺の親たちはすごく悲しんだ」
「うん」
僕は、僕の親が亡くなってることを三浦は知っていたんだと思いながら相槌をうった。
「それで、その1年後ぐらいに母さんが病気で死んだ。親父は研究者の変わり者だ。だから、同じ年齢の廉と住んだらいいんじゃないかと思ったそうだ」
「うん」
「だから、廉の家に来た。おしまい」
「…来た理由はわかったけど、なんで今更?」
僕の親が亡くなったのは、僕が5歳のときだから8年前だ。
だから、三浦のお母さんが亡くなったのは7年前。
なんで、5年以上もたった今頃、僕を頼るんだろう?
「さぁ?親父の考えることは、いつも分からない」
「まぁ、いいや。じゃ、いつまで居るつもり?」
「そうだなぁ…。分かんない。でも、金のことなら心配しなくていい。親父が毎月仕送りをくれるってさ」
「うん。じゃあ、仕事の分担を決めようか」
僕が質問をやめ、仕事の分担を決めようとすると三浦はすこし慌てた様子で言った。
「他に聞くことはないのか?どこから来たのかとか、いままでどんな風に生きてきたのかとか…」
「聞く必要は無いよ。知らなくてもかまわないし、僕も話す気はない」
僕は、思っていることを言った。
過去を知ったからって、三浦がここに居候することは変わらない。それに過去や未来を話すことが、僕は嫌いだった。なんとなく嫌だった。
「…そうか。べつに、それでいいなら俺もそれでいい」
「じゃあ、仕事分担をしないとね。やることは、朝食と夕食づくり・買い物・洗濯・掃除・お風呂の用意。こんなもんかな?」
「そんなにあるのかよ」
口に出さなくても、三浦がかなりイヤがっていることが分かった。でも、僕はかまわず続ける。
「朝食と夕食は1日交代。買い物はご飯を作る人が、必要なものがあれば買いに行く。洗濯は1週間交代。掃除は1週間に1回、順番にやる。お風呂の用意は三浦の仕事」
「…本気?」
「もちろん」
「やだ。やりたくない」
「居候の立場で、なに言ってるのさ」
「どう考えてもおかしいだろ?俺は主婦じゃない」
「僕だって主婦じゃない」
キッパリと言い切る。三浦は駄々をこねる子供のようだ。
「…わかったよ、やればいいんだろ?でも、なんでお風呂の用意だけ俺の仕事なんだ?」
「理由、1つ目は居候だから。2つ目は部活に入ってなくて帰りが早いから。3つ目は…」
「スイマセン。もういいです」
「それでよろしい。あっ!」
僕は、あることを思いついた。
三浦が、怪訝そうに見てくる。
「じゃあ、わかったね?」
「あぁ」
僕は、最後の確認を取ると部屋に閉じこもった。
「…変なヤツ」
三浦は、クスリと笑うと自分の部屋に戻ろうとする。
でも、キッチンの洗ってないお皿が目に入ってため息をついた。
「しょうがないな」
三浦は、そう言うと慣れた手つきでお皿を洗っていく。
その姿は、とても楽しそうだった。


僕は、三浦と話している途中にいいことを思いついた。
三浦に言ったら、馬鹿にされそうなことだったが僕は作りたくてしょうがなかった。
当番表と名前のはんこう。
美術部の僕は、何かを作ることが大好きで、作ることを考えるのは楽しくてしかたがなかった。
あれこれ、デザインを考え作っていく。
僕は時間を忘れ、作ることに熱中した。
完成したのは、次の日だった。
完成して、すぐに机で寝てしまった僕はハッと目を覚ますと時計を見た。
「やばい!遅刻するー!」
波乱万丈な1日が、また始まった。





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