5 表情


「ふぅー、間に合った」
僕と三浦は、ギリギリ遅刻をまぬがれた。
「全く、廉が寝坊するからぁ」
三浦が、横で不満げにつぶやいている。
「はいはい、すいませんでしたネ」
僕たちが、教室に入るとクラスメイトによばれた。
「ちょっと、廉」
「なに?」
「なんで、あんなに三浦と仲がいいんだ?」
「だから、家が近いから…」
「でも、引っ越してきて1週間もたってないだろ?」
「ほら、あの…すごい気が合うというか…」
僕が、しどろもどろに話していると横からヒョイと顔がのぞいた。
「何、話してんのー?」
クラスメイト達が、ビクッとする。
「なになに、ナイショ話?俺も混ぜて」
「三浦君ッ////」
女子が、悲鳴に近い声を出す。
「あ、一磨でいいよ」
「はいッ!」
女子は、とっても幸せそうだ。
「廉も、一磨でいいんだよー?」
一磨が、下からのぞきこみながら言ってくる。
「言ったでしょ?信用してないって」
僕は、突き放すと席に着いた。
女子は、さっそく三浦にまとわりついてあれこれ聞いている。
誕生日は?血液型は?どこに住んでたの?好きな女子のタイプは?
僕が、尋ねなかった答えを執拗に求めている。
男子は、僕と三浦の不思議な関係に首をかしげていた。

「れーんッ♪」
部活が休みで、さっさと帰ろうとしていた僕を三浦が呼びとめる。
「何?」
僕は、少し眉をひそめて問い返した。
「実はさ、学校の中を案内してほしいんだけど…」
「そんなの、ファンクラブの皆さんにしてもらえばいいじゃん」
三浦の噂はあっという間に広がって、転校して3日でファンクラブが出来た。
「何?ヤキモチ焼いてるの?」
三浦がニヤニヤして言う。
「………」
僕は、心の底からげんなりした。
「で、案内してくれるよね?廉くーん?」
「ヤダ」
「なんでー?」
「めんどくさいし、変な噂がたつのもイヤだからね」
「俺は、大歓迎だけど?」
僕は、三浦を無視することにして歩きだす。
くつ箱で、上靴を脱ごうとしたとき…
「…!」
後ろから三浦がぎゅっと抱きついてくる。
「居候のこと、みんなに言ってもいいんだよ?」
耳元でそう囁くと、僕の無言をOKととったのか手をつないで引っぱってくる。
「はぁ…」
僕は大きなため息をつくと、どうやって手を離そうか考えた。
各クラスの教室、職員室、音楽室、美術室、調理室…。
さまざまな教室をまわり、僕らは今図書室にいる。
図書室でやっと全てをまわり終えた。
疲れた僕はイスに腰掛けて、三浦の姿をぼんやり見ていた。
三浦は、なにか熱心に本の背表紙をおっている。
「あ!」
「見つかった?」
「うん」
「なんの本?」
三浦の手にある本を見ると、聖書のようなデザインの本だった。
「トキミノメ?これ、三浦も好きなの?」
「うん」
「僕もね、この本大好きなんだ。トキミノメがあったらいいのにね」
「…うん」
三浦はどこか辛そうな表情で、本を棚に戻した。
「…帰ろっか」
「そうだね、暗くなってきたし」
最近よく三浦の、辛そうな哀しそうな…そんな顔をよくみかける。
悩み事でもあるのだろうか?
三浦のことだから、くだらないことだろうけど。
でも、なぜかその顔に僕の心は哀しみに揺れる。

それは、何を表すのだろう────?





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