6 雨降る夜に。


家に帰ると、今日、遅刻しそうになった原因を三浦に見せた。
家事の当番表と、「れん」「みうら」というハンコ。
これを見て、三浦は「相変わらず一磨じゃないんだね」と拗ねたように言った。
今日の夕食当番は、三浦。
「そういえば三浦って料理つくれんの?」
「え?それ、いま聞く?」
「うん」
「まぁ、一応は」
三浦は、曖昧に言うと冷蔵庫にむかった。
「なんでも使っていいの?」
「いーよ」
三浦は、それきり黙ってなにか考えているようだった。
僕は、着替えに自分の部屋に戻るとベットに倒れこんだ。
三浦が来てからというもの、完全に三浦のペースになっている。
疲れる…そう思っているはずなのに、この家に僕以外の住人がいることを心のどこかで喜んでいた。居候なんだけどね。
「れーん!ちょっと来てー!」
三浦が大声で僕を呼んでいる。
僕は、軽い足取りでキッチンに向かった。
「ちょっと味見してみてよ」
「うん、いいよ」
出されたのは…ホットケーキ!?ちょっと待って!これって夕飯だよね?
「三浦…これは何?」
「何って、ホットケーキじゃん?」
やっぱ、ホットケーキかぁ…。じゃなくて!
「なんで、夕飯にホットケーキ?」
「え?夕飯にホットケーキ食べない?」 「うん、食べたことは1度もない」
「嘘!なんで?」
「こっちがなんでだよ!なんでそんな甘いもの夕飯に…」
「あ!もしかして廉、甘いもの嫌いだった?うわ、考えてなかったぁ…」
「いや、嫌いってわけじゃないけど夕飯としてはちょっと…」
なんで、僕が悪いみたいになってるんだよ!
「…もういいよ、食べよ」
「なんかかける?バターとかジャムとかメイプルシロップとか…」
「うん」
僕は、バターとマーマレードのジャムをつける。
三浦は、バターとメイプルシロップをありえない量つけていた。

〜居候メモ〜
三浦の、定番夕食はホットケーキ。
しかも、相当な甘党。
僕は、幸せそうな三浦を横目で見つつホットーケーキをたいらげた。
まぁ、普通においしかったけど…次は何を作る気だろう…。



ザァァァァァーーーーーーーーーーーー。
その夜は、雨が降った。
廉が寝静まったころ、一磨は1人電話をしていた。
「…うん…順調に進んでるよ。廉はあれが自分って気づいてないみたいだけど…間違いないよ。それじゃ、おやすみ」
電話を切った一磨は、崩れ落ちるようにしゃがみこんだ。
一磨は、苦しそうに顔を歪めて、この暗い夜が明けるのをひたすらに待った。





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